両親の離婚後も聡と美鶴は親交があったから、美鶴ベッタリの里奈が聡と顔を合わせることもあった。だが気弱な里奈にとって、聡のようなハッキリとした性格の人間はどことなく怖く、それほど親しくはなれない。まして美鶴のように、名前でなんて呼べるワケはない。
転校後、会わない事はなかったがほとんど疎遠になってしまった聡という存在は、里奈にとっては今でも小竹聡なのだ。
「ごめん」
「なんで謝るんだよ」
ようやく肩を開放し、聡はイライラと里奈を咎める。
「謝られんのが、一番腹立つんだよ」
「ご、ごめんなさい」
言って慌てて口を抑える里奈。
「あっ ごめん……」
「ったく」
聡は里奈から視線を外し、片手で鞄を肩に乗せる。
「うぜぇ女」
里奈には聞こえないように呟いたつもりだが、ひょっとしたら聞こえていたかもしれない。
まぁ聞こえていても構わない。こういうイジイジとした女が、一番嫌いなんだ。
なんだって美鶴は、こんな女と一緒にいたんだろう?
ふと視線を遠くへ飛ばす。
大空の中央にデンッと居座る積乱雲。だがそこから、小さな雲が千切れていく。
君の季節は終わりだよ。
そんなふうに、見切りをつけて離れていくかのような千切れ雲。なぜだろう? 冷めたような感情を誘発させられる。
里奈に裏切られて、美鶴は変わってしまった。それが誤解だろうがなんだろうが、里奈が原因である事に変わりはない。
こんな女のせいで―――
そう思うと、隣の存在が腹ただしい。
そんな不機嫌な感情が、顔に出てしまっていたのだろうか。里奈はもう恐る恐る口を開く。
「あっ の……」
「あぁ?」
ぶっきらぼうな聡の言葉に身を震わせ、それでも腹に力を込めて意を決する。
「あの、どこへ?」
その言葉に、聡は呆れたようにジロリと見下ろす。
「お前、美鶴に会いたいんだろ?」
頷く里奈。
「だったら黙ってついて来いよ」
「え?」
目を丸くする里奈。
「美鶴、もう学校にはいねぇよ」
「いないって」
「お前、金持ってるか?」
「え? お金って」
里奈は無意識にスカートのポケットに手を当てる。
「お金?」
「美鶴は古い駅舎に行ってる。電車じゃないと行けないぜ」
あっ そういうコトか。
ホッと胸を撫で下ろす。
駅舎。
ツバサに聞いた事がある。美鶴は古い駅舎を霞流という人から借りていて、放課後はほとんどそこで過ごしてる。金銭的に厳しい美鶴がわざわざ定期を購入してまで通っているのだ。よっぽど気に入っているのだろう。
美鶴のお気に入りの駅舎―― か。
行ってみたいと思っていた。
行けるのかと思うと、嬉しい。
「何笑ってんだよ?」
気味悪そうに目を細められても、今なら少し、我慢できる。
「あの、ありがとう」
「あ?」
「案内してくれるんでしょう? それに、さっきは助けてくれて」
「は?」
小さな目を丸くし、やがて聡は足を止めた。
「助けた?」
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